sisouron

都市を多面的に観察したい

今だからこそ社会学が必要だ

 最近Twitter上で社会学に対しての風当たりが強いのを感じて、居ても立ってもいられなくなってしまったのでそれに対しての私の気持ちを書こうと思います。

 またわたしの専門は社会学ではなく大学院の入試で勉強をしてその後社会学を好きになった人間なので、専門とされている方々にとっては稚拙な内容となってしまうおそれがあるということを先に許していただけたらと思います。

 

 もともと社会学とは社会で起こっている出来事に対して理論をあてはめたり、調査をすることによって社会で起こっている出来事を分析・理解することであると考えています。その行為自体が楽しく社会学はそれだけで価値があると思うのですがこれだけだと流石に足りないと思うのでもうすこし最近感じていることを踏まえながら述べていきたいと思います。

 

 新潮12月号で社会学者である岸政彦さんも記されていたことですが、最近他者の行動に対する結果に対して「自業自得だ」としてしまう自己責任論が強くなっているように感じます。フリージャーナリストの方に対して「政府や国民に迷惑をかけた」という人もいるし、いじめを苦に自殺をしてしまった学生に対して「死んだら負け」という人もいるのです。

 西日本新聞で学者の中島岳志さんは「私たちは過度の競争社会の中、他者を助けることの「余裕」を失い、「寛容」を喪失してきた。その結果、「迷惑」に過敏になり、「自己責任」というバッシングが横行するようになった。」としています。

www.nishinippon.co.jp

 

 社会学が必要な理由はここにあると私は思います。私たちが余裕を失い自己責任が強まっているのは標的に対しての無理解から生じるのです。

 岸政彦さんは「他者の合理性の理解社会学」というテーマで「一見不合理に見える行為が、当事者にとってどのような「意味」があるかということを考えてい」ます。

 

www.ohtabooks.com

 

 先程のように一見不合理に見える行為はわれわれの余裕が無い時に標的になり得るのです。「こんなことをしたのだから、こうなってしまっても当然だ」という感情です。それは私たちの目線で”こんなこと”を見ているからであって、当事者にとっての”こんなこと”には意味があるのではないでしょうか。社会学には社会がより相手のことを理解する余裕と相手を認めることのできる寛容さを取り戻す力があると私は思います。

 

 リンカーンは「直接会って話すのが、お互いの悪感情を一掃する最良の方法である。」と言いました。好きではない、気に入らない、理解できない相手に対してこそもっとその相手を知らないといけないのです。心理学的に私たちは「根本的な帰属の誤り」に陥りやすいとされています。その人の周りの状況を見落としてしまいがちでその人の行動の理由を個人の内面に求めてしまいがちなのです。

 そのような我々が陥りやすい「根本的な帰属の誤り」に陥らないためにはどうすればよいのでしょうか。自分が相手の状況に置かれた場合を考えたり、また他者の行動の原因を内的なものに求めるのではなく、より他者のことを多く知ろうと意識的に努力することであるとされています。社会学が批判される今だからこそ社会学のことをもっと知る必要があるのだと私は思うのです。

 

 最後にTwitterで一部の社会学者の発言が問題的であり炎上している現状は確かに認めることができます。しかしそこから主語がその特定の社会学者から広範な社会学という学問全体にすり替わっていることに辛さを感じます。特定の社会学者の発言→「また社会学者か」→社会学批判という流れをタイムラインで見てはすごく嫌な気持ちになるのです。主語の大きな発言は対象をひとつにひっくるめた一般化であり、個々のケースを排除した暴力であると私は思います。より社会にもう一歩深く考える余裕が生まれ、寛容さがもたらされることを願ってやみません。

 

 参考文献

岸 政彦 (著), 石岡 丈昇 (著), 丸山 里美 (著) 『質的社会調査の方法 -- 他者の合理性の理解社会学 (有斐閣ストゥディア)』

Richard H. Smith (原著),澤田 匡人 (翻訳) 『シャーデンフロイデ: 人の不幸を喜ぶ私たちの闇』

西日本新聞(2018年12月1日)『安田純平さん解放と自己責任論 「余裕」失い 「寛容」を喪失 「迷惑」に過敏 バッシングへ 進むのは保守の空洞化』https://www.nishinippon.co.jp/feature/press_comment/article/469758/(2018年12月1日閲覧)

【インタビュー】社会学の目的 http://www.ohtabooks.com/at-plus/entry/12443/(2018年12月1日閲覧)